性同一性障害とは一体なんなのか?
自分が生まれてきた時に定められた社会的な身体の性別と自分自身の心の性別が一致しない状態のことを指します。
ftmの場合は生まれた時の身体の性別が女であったのに対して、自分が思っている性別が男であるため混乱をきたします。
性同一性障害を英語で表すとGender Identity Disorder。
Gender(ジェンダー)=性別
Identity(アイデンティティー)=身元
disorder(ディソーダー)=障害
これを略してGID(ジー・アイ・ディー)とも言います。
1953年にアメリカの内科医によって報告された“性同一性障害”の概念は、その後世界中で認知されるようになりました。近年では性同一性障害を“精神疾患の1つ”として捉えるよりは“性の多様性の一部”として理解しようとする動きが広まっており、2013年に発表されたアメリカ精神医学会が発表した最新の「精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)」第5版の基準の中では“障害”という言葉が外され、性別違和症候群(GD:Gender Dysphoria)という名称に改められました。
性別違和
Gender(ジェンダー)=性別
Dysphoria(ディスフォーリア)=不快
DSM第5版性同一性障害診断基準
本稿では、性同一性障害ではなく、DSM-5におけるgender dysphoriaの診断基準を記す。
なお、正式な日本語訳は、未発表のため、筆者による試訳である。
302.85 成人あるいは青年の性別違和
A. 少なくとも6ヶ月続く、経験した/表現した性別と、指定された性別との著明な不一致。以下の2つ以上によって表れる。
- 経験した/表現した性別と、第一次および/または第二次性徴(または、早期青年では予想される第二次性徴)との著明な不一致。
- 経験した/表現した性別との著明な不一致を理由とした、第一次および/または第二次性徴から解放されたいという強い欲求(または、早期青年では予想される第二次性徴の発達を阻止したい欲求)
- 反対の性別の第一次および/または第二次性徴を獲得したいという強い欲求
- 反対の性別(または、指定された性別とは違う何らかの代わりの性別)になりたいという強い欲求
- 反対の性別(または、指定された性別とは違う何らかの代わりの性別)として扱われたいという強い欲求
- 反対の性別(または、指定された性別とは違う何らかの代わりの性別)の典型的な感情や反応を持っているという強い確信
B. その状態は、臨床的に著しい苦痛または、社会的、職業的または他の重要な領域における機能の障害と関連している。
性同一性障害はいつ発症するのか?
性別への違和感の発症様式は2つに分かれます。
早発性性別違和(そうはつせいせいべついわ)
小児期に性別への違和感が始まり、若いうちにホルモン治療や性別適合手術による治療を求めます。
晩発性性別違和(ばんぱつせいせいべついわ)
思春期前後かそれ以降に性別への違和感が始まり、言葉で表出はしなかったものの、実は子どもの頃からもう一つの性になりたいと思っていた人もいます。
性同一性障害の原因
結論からいうと、性同一性障害の明確な原因はまだ明らかになっていません。
身体の性別は、卵子と精子の受精のタイミングで決まります。卵子の元へ辿り着くのが「X染色体の精子」なのか「Y染色体の精子」のどちらが受精するかで性別が決まりますが、脳の性別は身体の性別が決まった後に決まります。
受精後にエストロゲンと呼ばれる女性ホルモンを浴びた場合、胎児は女の子として成長します。しかし、出産直前など、何らかの原因によりテストステロンと呼ばれる男性ホルモンを浴びてしまうと、脳は男性になってしまいます。
海外の研究などからも、この性別が決まる段階で身体と脳の両方の遺伝子に何らかの疾患が発生してしまうことが原因ではないかと考えられています。しかし研究データが極めて少なく、明確な原因は分かっていません。
性同一性障害の症状
性同一性障害の主な症状は、「自分の身体の性別に対する違和感」、「反対の性別でありたいという願望」の2つが挙げられます。生まれつき体の性別と自分が認識する性別が異なり、その違和感に苦しむことです。そのため、性同一性障害の方は、幼い頃から身体的にも心理的にも大きな負担を抱えながら生活しています。
ftmの典型的な症状でいうと
- スカートではなくズボンばかりはく
- 赤いランドセルに嫌悪感を抱く
- 胸の膨らみを隠す(ナベシャツを着る)
- 女子更衣室や女子トイレに入りたくない
- 男性らしくなりたいと思う
- 女性として認識されたくない
など…
性同一性障害の治療
性同一性障害の治療は目に見えない治療の「精神的治療」と目に見える治療の「身体的治療」があります。
精神的治療(精神的サポートと新しい生活スタイルの検討)
これまでの生活史の中で、性同一性障害のために受けてきた精神的苦痛・社会的苦痛・身体的苦痛について、治療者は十分な時間をかけ、精神的なサポートを受けます。
現時点で、どのような生活が自分にとってふさわしいのかを検討し、既にどれだけ実現できているか、現状で更に実現できることがあるかなどを詳細に考え、実現向けての準備や条件作りを行います。その間必要に応じて面談を行い、希望する生活が揺るぎなく継続できるか、生活場面でどのような性質の困難があるかを探ります。
ホルモン療法を希望する者に対しては、ホルモン療法に移行した際の様々の変化を予測し、その変化に対応できる状況が得られるか、その生活を現実にできる範囲で行ってみます。このような生活は必ずしも生活の全般において行う必要はなく、パートタイムのもの(例えば、就業時間外や休日の外出時など限定された局面において行うもの)であってもよいでしょう。
家族や職場へのカミングアウトを行っていった方が適応しやすい状況ができるのかなども検討し、その方法やタイミングについてのアドバイスをもらいます。あるいは必要に応じて、家族面接で理解と協力を求めたり、職場・産業医等との連携を取るなどの方法を検討しましょう。また大学生等の場合は、健康管理センターやカウンセラー・学生部・教務等との連携をとる方がよいかどうかも含め、本人とともに検討します。
うつ病などの精神科的合併症がある場合には、合併症の治療を優先し、適応力を生活上支障のないレベルに回復させてから治療を行います。すなわち、性同一性障害としての積極的治療に耐えられるレベルを達成できるようになるまで、性同一性障害としての治療を一時保留することもあり得ます。
身体的治療(ホルモン療法及び乳房切除と新しい生活スタイルの確立)
ftmの場合、精神的治療を経てホルモン療法に移行する際、本人の希望があれば、乳房切除術を選択することができます。あるいはホルモン療法を行わずに乳房切除のみを行うこともできます。両者を同時にあるいは時を違えて行うことも可能です。
内外性器の手術は卵巣摘出、子宮摘出、尿道延長、膣閉鎖、陰茎形成術があり、どのような範囲の手術をどのように行うかの選択は、それぞれがもたらし得る結果と限界やリスクについて十分な情報を提供し、本人の意思を尊重しながら検討します。